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横浜地方裁判所 昭和38年(行)12号 判決 1965年8月16日

原告 清田新次 外一名

被告 横浜市建築主事

参加人 酒寄内蔵

主文

被告が昭和三八年七月二四日付鶴第六五九号で参加人酒寄内蔵に対してなした建築確認処分を取消す。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は被告の負担とし、原告と参加人との間に生じた分は参加人の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は主文第一項同旨及び訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

「一、参加人はその所有する横浜市鶴見区生麦町字八幡前九八六番の五、及び九八九番の三の土地(以下「本件建築物敷地」という)にアパートを建築するため被告に対し建築確認を申請したところ被告は昭和三八年七月二四日付鶴第六五九号をもつて、右申請を確認する行政処分(以下これを「本件確認処分」という)をなした。

二、しかし右確認処分は次の理由で違法であり取り消さるべきものである。

即ち建築基準法(以下これを「法」という)第四三条によれば建築物の敷地は建築物の周囲に広い空地があり、その他これと同様の状況にある場合で安全上支障がないときを除き、原則として道路に二メートル以上接しなければならず右の「道路」とは法第四二条によれば同条第一項各号のいずれかに該当する幅員四メートル以上のものか又は同条第二項により同法第三章の規定が適用されるに至つた際、現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で特定行政庁の指定した第一項の道路とみなされるものでなければならぬ。法第三章の規定が施行されたのは昭和二五年一一月二三日であり、法第四二条第二項に基き特定行政庁たる横浜市長は横浜市建築基準法施行細則第一二条で法第三章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満、一・八メートル以上の道は法第四二条第二項の規定による道として指定した。

ところで本件建築物敷地は、原告長江信子の所有する横浜市鶴見区生麦町字八幡前九八六番の三、宅地三三坪二合五勺、同町同字九八九番の二、宅地五五坪と原告清田新次の所有する同町同字九八九番の一、宅地七三坪四合六勺と各隣接し、右各原告の土地上には各原告の家屋が作られ、原告清田新次はその一部を訴外宮崎字之助に賃貸しており、本件建築物敷地、原告長江信子の右所有地と原告清田新次の右所有地の境界には幅員約三尺のその端が公道に交叉している通路(以下これを「本件通路」という)がある。

従つて、本件建築物敷地に接する本件通路が前記の法の要求する要件を満たすためには、昭和二五年一一月二三日当時、幅員一・八メートル以上でなければならぬところ、本件通路は当時から現在に至るまで幅員約三尺である。

右の通り本件通路は、法第四二条第一項又は第二項及びこれに基く横浜市建築基準法施行細則第一二条に規定するいずれの要件をも満たさぬのにかかわらず、右を無視してなした本件確認処分は違法であり取り消さるべきものである。

よつて原告らは本件建築物敷地の近隣居住者として被告に対し本件確認処分の取消を求める。」と述べ、なお、「原告らは行政事件訴訟法第八条第二項第二号及び第三号にもとづき審査請求の手続を経ないで本訴を提起したものである。」と附言し、被告の参加人が囲繞地通行権を有する旨の主張に対し、「かりに参加人が本件建築物敷地から公道に至る囲繞地通行権を有しているとしてもこの通行権は囲繞地のために最も損害の少ない場所及び方法で通行する権利としてのみ認められるものであるから、現状の約三尺の幅員の通路で十分でありこれが特段の合意もなく、又公益上の必要も補償もないまま原告らの土地及び建物所有権を侵害して一・八メートルの幅員に拡張されるなどと解する余地は全くない。」と述べ、参加人の本案前の当事者適格に関する主張に対し

「原告等及び被告はともに本件訴訟につき当事者適格を具備する。

一、法及びそれに基く条例は単に建築主の個人的利益ばかりでなく、国民の生命、健康、財産等の保護をはかり、もつて公共の福祉の増進に資する目的から建築物の敷地、構造、用途等に関する最低基準を定め、行政上の規制を加えるものであり、法第六条の建築主事の確認処分も右の見地から、その最低基準に適合するか否かを判断するものである。

原告等は請求原因記載の通り本件建築物敷地に隣接する土地の所有者であり、かつその土地上に建物を所有し居住する者であるが、本件の違法な確認処分により法律上保護されている右利益を侵害されるに至つたので行政事件訴訟法第九条の『当該処分…の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者』である。

二、本件確認処分をなした主体が被告建築主事であることは法第六条の規定により明らかであり、さらに、被告が本件確認処分をしたことは同人において争わないところであるから、被告が処分をした行政庁として本件抗告訴訟の被告たるべき適格を有することはいうまでもない。」と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、次の通り述べた。

「一、請求原因第一項は認める。本件建築物敷地は元訴外山本慶作の所有地であり、同人は右土地上に木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅一棟、建坪八坪五合を所有していたが右建物は昭和三一年四月一五日増築により建坪一二坪二合五勺となつた。参加人は昭和三八年七月四日右土地及び建物を山本慶作より買受け右建物を取毀しその跡に本件アパートを建築すべく確認申請をなしたものである。

二、(一) 請求原因第二項中、原告等が本件建築物敷地に隣接するその主張の各土地を所有し原告清田新次はその所有地の一部を訴外宮崎宇之助に賃貸していること、本件建築物敷地、原告長江信子のその主張の所有地と原告清田新次のその主張にかかる所有地の境界にその主張の如き本件通路が存在することは各認める。

(二) 昭和二五年一一月二三日当時本件通路が約三尺の幅員であつたことは否認する。即ち当時幅員は一・八メートル以上あつた。原告長江信子はその所有地上の元訴外加瀬文子所有の木造瓦葺平家建居宅建坪一二坪(別紙添付図面Cの部分)を買受け、昭和二七年八月二二日当時これを一階一九坪二合五勺外二階六坪二合五勺に増築していた(同図面(C)部分に(B)及び(B)′部分を増築)がその頃本件通路の幅員は一・八メートル以上あつた。ところがその後更に同図面A部分を無届で増築したため、現在本件通路の幅員が一・八メートルを欠くに至つたものである。

(三) 仮りに昭和二五年一一月二三日当時本件通路の幅員が一・八メートル以下であつたとしても原告清田新次の所有の生麦町字八幡前九八九番の一、宅地七三坪四合六勺、原告長江信子所有の同町同字九八九番の二宅地五五坪、参加人所有の本件建築物敷地の一部たる同町同字九八九番の三、宅地一八坪四合五勺は昭和二三年七月二七日元同町同字九八九番宅地一四六坪九合一勺が分筆されたものであり、その為本件建築物敷地が袋地になつたので、原告等の右所有地を通り、京浜電鉄軌道沿いの公道に至るまで宅地として使用しうる限度で囲暁地である原告等の所有地を通行しうることは民法第二一〇条に規定する通りである。

又本件建築物敷地は右の本件通路に六メートル以上接している。

右の通りいずれの点からするも本件確認処分は何ら違法ではない。」

参加人の訴訟代理人は本案前の申立として「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決、本案につき「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、本案前の申立の理由、請求原因に対する答弁を次の通り述べた。

「(本案前の申立の理由)

一、原告等は当事者適格がない。

(一)  行政事件訴訟法は第九条において取消訴訟は当該処分の取消を求めるにつき『法律上の利益』を有する者に限り提起できる旨規定する。右の『法律上の利益』とは行政処分により自己の権利が毀損された者がこれの排除により回復する利益をいうのであつて、その権利は公権たると私権たるとを問わず広くいわゆる自由権をも包含すると解されるが、単なる感情的、道義的利益又は法規の反射的利益に止まる場合は法律上の利益といえない。

原告等は本件建築物敷地に直接隣接する土地の所有者でかつその地上に建物を所有する者で公共の危険を蒙る者であるから法律上の利益があるという。

しかし右は参加人が本件アパートを建築しないで本件建築物敷地を空地としておくことが保健、衛生、火災予防の見地から感情的、道義的に原告等に利益であり、かつ法所定の建物を建築することにより参加人の土地所有権の一部に公法上の制限を受け、この反射的利益が原告等にも及ぶからといつて、いずれも原告等の権利を毀損する何ものも存在しない。

(二)  法律上の利益に至らぬ感情的その他の利益が原告等にあるからといつて特定行政庁に対し違反建築物の是正措置を求める権利が原告等にあるとはいえない。

即ち(イ)近隣居住者のような第三者に対しても右措置を求める申立権を付与した規定がない。(ロ)法第九四条第一項に処分を不服とする者の異議申立を認める規定があるも、右は特定行政庁が同法に従い建築行政を行う一般的義務を定めたものに過ぎず、右義務は近隣居住者個人に対する具体的義務でないから特定行政庁が是正措置をとらなくてもそのことにより原告等の具体的な法律上の利益が毀損されたということはできない。

いずれにせよ、本件確認処分は原告等の法律上の地位に影響を及ぼすべき行政処分ではないから、その取消を求める本案訴訟は不適法である。

二、被告は当事者適格がない。

横浜市建築主事は行政庁ではなく、法第二条第二一号にいう特定行政庁たる横浜市長の事務履行機関に過ぎぬ。

即ち建築主事の職務権限は、特定行政庁の指揮監督のもとに一定の要件を備えた建物(法第六条第一項)につき単に確認に関する事務(法第四条第一項)を司り又これに附帯して建物の検査及び使用承認に関する事務(法第七条)を司るに過ぎぬし、違反建築物に対しては特定行政庁が当該建物の建築主その他に対し当該工事の施行の停止を命じ、その他の措置をとる(法第九条第一項)のであるから、行政庁は横浜市長であることは明白であるので横浜市建築主事たる被告に当事者適格はなく、本件訴は不適法である。

よつて本案に対し審理をなすことなく、本件訴を却下することを求める。

(請求原因に対する答弁)

一、請求原因第一項は認める。

二、(一) 請求原因第二項中、本件通路の両側に原告主張の原告等所有の土地が存在することは認める。

(二) 本件通路が昭和二五年一一月二三日当時幅員約三尺であつた点は否認する。即ち当時一・八メートル以上あつたものである。訴外田辺長八は、昭和二三年七月二七日同人所有の生麦町字八幡前九八九番宅地一四六坪九合一勺を同町同字九八九番の一、宅地七三坪四合六勺、同番の二、宅地五五坪、同番の三、宅地一八坪四合五勺に分筆の上同番の一を原告清田新次に(同原告はその一部を訴外宮崎宇之助に賃貸)同番の二を訴外加瀬文子に(その後訴外平林政吉を経て現在原告長江信子所有)、同番の三を訴外山本慶作に(現在参加人所有)それぞれ譲渡したがこのため同番の三(本件建築物敷地の一部)は袋地になつたので、原告清田新次、訴外加瀬文子、同山本慶作の三名は各所有地中三尺を提供し、計幅員六尺、長さ一三間の通路を開設した。

これが元の本件通路であり、昭和二五年一一月二三日当時にも右幅員で存在し、同通路に面し、原告清田新次、訴外加瀬文子、同山本慶作、同宮崎宇之助等の各所有しかつ居住する住居が立ち並んでいたものである。」

(証拠省略)

理由

一、まず、審査請求手続を経ないで本訴を提起したことにつき判断する。

後記認定のような本件確認処分に係る建物の用途、構造、延坪数及び成立に争いのない乙第一号証の三により明らかな右建物の工事完了予定日(昭和三八年一〇月三一日)によれば法所定の審査請求手続をふむにおいては、裁決期間内に右建物が事実上完成することが予想されたのみならず、成立に争いのない乙第三号証の一ないし四、証人長江源三郎の証言、原告清田新次本人尋問の結果を綜合すれば、横浜市建築局関係者は本訴提起前においても、またその後においても(本訴が昭和三八年一〇月七日提起されたことは記録上明らかである。)本件通路の幅員は昭二五年一一月二三日当時は一・八米以上あり、原告長江信子のその後における無届増築により現在では一・八米を欠くに至つたものであり、従つて本件確認処分には原告ら主張のような違法は存在しないとの見解を堅持しているものであることが認められるので、原告らは本件確認処分について建築審査会に対し審査請求をしても自己に有利な裁決を期待することができない事情にあつたものと認めるを相当とするので、これらの点を考え合せると、原告らは後記認定のように本件建築物敷地に隣接する土地を所有し、かつこれに居住する者であるから、本件確認処分により生ずる著しい損害を避けるため裁決を経ないで本訴を提起する緊急の必要があり、かつまた裁決を経ないことにつき正当な理由があるものというべく、従つて、行政事件訴訟法第八条第二項第二号及び第三号の事由があることとなる。

二、次に原告の当事者適格につき判断する。

行政事件訴訟法は第九条で「処分の取消しの訴え……は当該処分……の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができる。」と規定するが、右の「法律上の利益」とは単に具体的な権利のみならず法的に保護された利益ないし法的保護に値する利益と解され、右の利益を行政庁の行為により侵害された者はその行為の相手方たると第三者たるとを問わず、その取消を求めることができるわけである。

ところで建築物を建てる場合には法第四三条第一項により建築物の周囲に広い空地がありその他これと同様の状況にある場合で安全上支障がないときを除き、建築物の敷地は道路に二メートル以上接しなければならず、右の道路とは法第四二条によれば同条第一項各号の一に該当する幅員四メートル以上のものか又は同法第三章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で特定行政庁の指定したもの(同条第二項)でなければならない。そして横浜市建築基準法施行細則第一二条は法第三章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満一・八メートル以上の道は法第四二条第二項の規定による道路として指定している

右規定はいずれも法第一条の「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的」として単に建築主のみでなく近隣居住者の保健衛生、火災予防等の見地から規定されているものである。

従つて法第六条による建築確認処分の対象となつた建築物の近隣居住者は法規違反の確認処分によつて保健衛生上不断の悪影響を受け、或いは火災等の危険に曝されるおそれがあるときは、法律上当該確認処分の取消しを訴求する当事者適格を有すると解すべきである。

本件についてこれを見るに、本件建築物敷地に原告等の各所有する土地が隣接している事実、本件建築物敷地原告長江信子の所有地と原告清田新次の所有地の間に僅か一・八メートル未満の幅員の本件通路が存在している事実は当事者間に争いがなく右各原告所有の土地上に原告等が各家屋を所有し居住している事実は被告及び参加人において明らかに争はないので自白したものとみなすべく前顕乙第一号証の三、被告本人尋問の結果により成立を認め得る乙第一号証の四、六、七によれば、参加人の本件確認処分に係る建物は延坪数三三坪四合一勺の木造二階建共同住宅であることが認められ、以上の事実と検証の結果を綜合すれば右確認申請に基く右建築の施行完成後においては原告らは比較的人家の密集し、しかも原告らの所有し居住する家屋から近接した場所に木造二階建の共同住宅を控えることとなり、日常の保健衛生上不断の悪影響を受け乃至は火災等の不測の危難に曝されるおそれなしとは断言し得ないものと認められる。従つて原告等は本件建築物敷地の近隣居住者としていずれも法第四三条第一項、同第四二条第一、二項、横浜市建築基準法施行細則第一二条の違反を理由に本件確認処分の取消しを求める法律上の利益があるものというべきである。

三、更に被告の当事者適格につき判断する。

行政事件訴訟法第一一条によれば処分の取消しの訴えは処分をした行政庁を被告として提起しなければならない。そして法第六条によれば、建築物の建築に際し、確認をなすのは行政庁たる建築主事である。本件確認処分をなしたのは横浜市建築主事たる被告であることは当事者に争いのない事実であるから、被告は被告適格を有するものといわなければならない。

四、そこで本案につき判断する。

(一)  参加人はその所有する本件建築物敷地にアパートを建築するため被告に対し建築確認申請をなしたところ、被告は昭和三八年七月二四日付鶴第六五九号をもつて右建築を確認する行政処分をなしたこと、本件建築物敷地に隣接して原告長江信子の所有する生麦町字八幡前九八六の三、宅地三三坪二合五勺、同町同字九八九番の二、宅地五五坪及び原告清田新次の所有する同町同字九八九番の一、宅地七三坪四合六勺が存在すること、本件建築物敷地、原告長江信子の右所有地と原告清田新次の所有地の境界に現在幅員一・八メートル未満のその端が公道に交叉する本件通路があることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで法第三章の規定が適用されるに至つた昭和二五年一一月二三日当時における本件通路の幅員及び立ち並んでいた建築物につき判断する。

成立に争いのない甲第二、第三号証、丙第一号証の一ないし三、官署作成部分の成立については争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証の二、原告清田新次本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証、証人吉井一郎、同池田健一、同上田英次、同宮崎宇之助、同依田光江、同山本慶作、同加瀬忠治郎、同長江源三郎、同田辺長八の各証言(但し証人田辺長八の証言中後記措信しない部分を除く)原告清田新次本人尋問の結果並びに検証の結果によれば訴外田辺長八は昭和二三年七月二七日その所有する横浜市鶴見区生麦字八幡前九一九番宅地一四六坪九合一勺を同町同字九八九番の一、宅地七三坪四合六勺、同番の二、宅地五五坪、同番の三宅地一八坪四合五勺に分筆し、右九八九番の一の土地を原告清田新次に、同番の二の土地をその地上の平家建の家屋と共に訴外加瀬文子に、同番の三の土地をその地上の平家建の家屋と共に訴外山本慶作にそれぞれ売却したがその際右訴外田辺長八は右加瀬文子に売却した家を原告清田新次の土地との境界から約一尺五寸あまり下げて建築したので、原告清田新次にもそれ位下げて建物を作り通路を開設する様依頼し、同原告はその後それに応じて約一尺五寸あまり境界線から下げて竹の垣根を作り家屋を建築したこと、その結果幅員一・一メートル前後の本件通路ができたこと、その頃同原告からその所有地の東南寄りの一部を賃借した訴外宮崎宇之助は、そこに平家建家屋を作り居住したこと、昭和二五年一一月二三日当時右の本件通路を真中に東側に原告清田新次、訴外宮崎宇之助、西側に訴外加瀬文子、同山本慶作らが各建物を所有して居住し、訴外山本慶作、同宮崎宇之助等が本件通路を利用していたこと、その後原告清田新次は前記竹垣を現在の有刺鉄線の垣根に変えその一部をブロツク塀にしたがその位置は同一であり、ブロツク塀はむしろ少し本件通路から下つていること、訴外宮崎宇之助は前記家屋を昭和三八年中頃、亜鉛鉄板葺モルタル塗木造二階建居宅床面積一階四二・五二五平方メートル、二階二七・五四平方メートルに増改築したこと、訴外加瀬文子は昭和二五年頃前記平家建の家屋を二階建建坪一階二一坪九合一勺、二階六坪二合五勺に増築し便所の汲取口を本件通路につけたこと、昭和三〇年一〇月頃原告長江信子は右加瀬文子から右土地及び家屋の所有権を譲り受けた訴外平林政吉からこれ等を買い受け同年一二月頃右家屋を瓦葺木造二階建旅館兼用住宅、床面積一階九〇・四五三平方メートル、二階三七・一二五平方メートルに用途変更増築し前記便所の汲取口を約一間ばかり南東に移転したこと、さらに昭和三六年中頃一階を増築して一二〇・五二二平方メートルとし(風呂場玄関の増改築)たが右訴外宮崎宇之助、同加瀬文子、原告長江信子等はいずれも右増改築に当り本件通路側にはみ出さず、本件通路の幅員は現在に至るまで一・一メートル前後であることが認められ、前顕乙第三号証の一乃至四、証人稲村マス、同門馬伝治、同鈴木弥十、同依田光江の各証言及び弁論の全趣旨により原本の存在並びに成立を認め得る丙第二号証の一、証人鈴木弥十、同松田ます子、同稲村マス、同西村千代子、同大塚スミ、前顕証人田辺長八の各証言中右認定に反する記載並びに供述部分は右認定に供した各証拠に照らし、たやすく措信できず他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右によれば結局昭和二五年一一月二三日当時本件通路には訴外山本慶作、同加瀬文子、同宮崎宇之助、原告清田新次の家屋が建ち並び、その幅員は一・一メートル前後であつたことが認められる。

(三)  次に囲繞地の通行権につき判断する。

被告の主張するところは、本件建築物敷地は昭和二三年七月二七日前記の経緯で分筆により袋地となつたからその所有者である参加人のために囲繞地である原告等の所有地を一・八メートル以上の幅員で通行する権利があり従つて本件通路は幅員一・八メートル以上あるべきであつたと解される。

囲繞地通行は通行権を有する者のため必要にしてかつ囲繞地の為最も損害が少ない方法を選ばなければならないことは民法第二一一条の明定するところである。

本件においてこれをみるに、前記認定の通り本件通路は開設された昭和二三年頃から訴外山本慶作、同宮崎宇之助等が利用していたものであるが、その幅員から考えて特に同人等が幅員が狭いため通行が困難でその生活に支障を来たしたという事情は本件に現われた全証拠によるも認められず参加人が従来通り使用するにつき特に支障があるともいえないから、たとい参加人が囲繞地通行権を有するとしても本件通路の幅員は囲繞地通行権の客体として狭きに失するものということはできないのみならず、参加人が本件通路上に囲繞地通行権を行使することができるからといつて、そのことから当然に本件通路が法第四二条第一項又は第二項所定の道路になるという理由もないから被告の主張は採用することができない。

(四)  結局被告は本件通路が昭和二五年一一月二三日当時幅員一・八メートル以上あつたと誤認し、参加人に対し本件確認処分をなしたものであるから本件確認処分が違法であることは明らかである。

従つて本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 久利馨 藤浦照生 谷沢忠弘)

(別紙図面省略)

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